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はじめに
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1. NICUでスタートした命
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2. 成長するも、言葉が出ない不安
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3. 「ママ」と聞いた日
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4. 希望を探して
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5. 少しずつ、少しずつ
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6. そして今
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7. 同じ悩みを持つあなたへ伝えたいこと
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1. NICUでスタートした命
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妻のお腹の中で、長男の成長が10か月ごろから遅くなっていると言われました。 念のため入院して様子を見ることになり、私はただ無事を祈る毎日でした。 そんなある日、宿直明けで家にいた私のもとに、妻から震える声で電話がかかってきました。 「赤ちゃんの心拍数がすごく落ちてる。緊急帝王切開になるって……」 涙声の妻に、どう声をかけたか覚えていません。 とにかく、すぐに病院へ向かいました。 職場に電話し、今日の遅番は休むことを伝えましたが、心はまるで嵐の中にいるようでした。 病院に着いたときには、すでに手術が始まっていました。 胸が張り裂けそうな時間――。 祈るように待ったあと、無事に「産まれました」という言葉を聞いたときの安堵は、今でも忘れられません。 体重は標準よりもずっと軽く、生まれてすぐNICU(新生児集中治療室)に運ばれました。 小さな小さな身体に、たくさんの管がつながれている姿。 それでも、か細く泣く我が子を見て、胸がいっぱいになりました。 妻は数日後に先に退院し、長男は1か月のNICU入院の後、無事に家へ帰ってくることができました。 「後遺症はなさそうですね」という医師の言葉に、心からほっとしたことを覚えています。 こうして、私たち家族と長男の新しい生活が始まりました。
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2. 成長するも、言葉が出ない不安
無事に退院できた長男は、小さな身体ながらも元気に成長していきました。
病院の先生からも「特に後遺症も見られないでしょう」と言われ、
家族みんなで、ただただ無事を喜びました。
けれど、成長する中で、少しずつ気になってくることがありました。
それが、**「言葉の遅れ」**です。
1歳を過ぎても、「ママ」や「パパ」といった言葉は出てきませんでした。
周りの同じ月齢の子どもたちが、少しずつ言葉を話しはじめる中で、
長男は「んー、んー」と喃語を繰り返すばかり。
初めは「個人差もあるし、焦る必要はない」と自分に言い聞かせていました。
でも、月齢を重ねるごとに、心の中の不安は大きくなっていきました。
ある日、会社の同僚の子どもたちと一緒に公園で遊んだときのこと。
2歳を過ぎた長男は、他の子どもたちと並んで遊んでいました。
「ママ、おやつ食べたい。」
「こっち、あそぼ!」
周りの子どもたちは、当たり前のように短い言葉をつなげていました。
その横で、長男は「んー、んー」とだけ声を出していました。
ふと、自分だけ違うと感じたのか、長男が突然泣き出しました。
大泣きして、なだめても抱っこしても、全く泣き止みませんでした。
そんな姿を初めて見て、胸が締め付けられるようでした。
結局、予定よりも早くその場を離れることに。
帰りの車の中でも、長男はしばらく泣き続けていました。
やがて泣き疲れたのか、静かに眠りましたが、
私は運転しながら、どうしてやることもできない無力感に襲われていました。
「眠かっただけなのかもしれない。」
「でも、違う気もする。」
そんな思いが、ずっと頭の中を巡っていました。
2歳を過ぎても、「んー、んー」だけの日々。
ネットで「発語 遅い」「2歳 喋らない」と検索する毎日が始まりました。
けれど、検索しても答えは見つかりませんでした。
ただただ、心がざわざわとするだけでした。
2歳半を過ぎたころのことでした。
「ママ。」
長男のはっきりした声が聞こえました。
これまで一度も聞いたことのない、しっかりとした発語でした。
私は夢中で妻を呼び、一緒に泣きながら喜びました。
「ありがとう、頑張ったね。」
何度も何度も、長男を抱きしめました。
その瞬間、ふっと場面が途切れました。
目を覚ますと、隣には「んー、んー」と喃語をつぶやく長男が眠っていました。
――夢だった。
頬をなぞるように、冷たい感触がありました。
それは、自分が流していた涙の跡でした。
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4. 希望を探して

それからまた、私はネット検索を繰り返すようになりました。
「発語 遅い」「2歳半 言葉出ない」「3歳 話さない」
毎晩、スマホを手放せない日々。
けれど、どれだけ調べても、はっきりとした答えは見つかりませんでした。
そんな中で、心に引っかかった話がひとつありました。
俳優の岡田准一さんも、3歳までまったく言葉を話さず、
でも、ある日突然、三語文を話して親を驚かせたというエピソードです。
「もしかしたら、うちの子も。」
小さな小さな希望でしたが、
そのときの私には、それだけでも救いになりました。
「もしかしたら、うちの子も、ある日突然話しはじめるかもしれない。」
そんなわずかな希望を胸に、私たちはできることを探し続けました。
ネットだけでは不安が拭いきれず、
役所の子育て相談窓口にも足を運びました。
相談員の方は、優しく話を聞いてくれました。
「発語が遅いお子さんには、できるだけたくさん話しかけてあげてください。」
「お風呂の中で歌を歌ったり、数を数えたりしてみてください。」
「歌遊びやリズム遊びもおすすめですよ。」
たくさんのアドバイスをもらいました。
でも、その言葉を聞きながら、心の中で叫んでいました。
――俺たち、やってる!
やってる、やってる、全部やってるんだよ!
毎日、お風呂で歌って、
一緒に数を数えて、
名前を何度も何度も呼びかけて、
できる限りのことは、全部やってきたんだよ。
それでも、言葉が出なくて、不安で、
どうしたらいいか分からなくて、ここに来たんだよ。
やり場のないもどかしさと、自分を責めるような気持ちが、ぐるぐると心の中を巡りました。
それでも、何か一歩前に進みたくて、
紹介してもらった「めばえ教室」という、発達支援クラスに通うことに決めました。
初めて訪れためばえ教室。
そこでは、発語のための体操や、言葉のリズム遊び、集団での活動などが行われていました。
すぐに劇的な変化があったわけではありません。
でも、通ううちにわかってきたことがありました。
長男は、トランポリンが得意でした。
そして、静かに座って待つことも、意外と上手にできていました。
「うちの子は、こんなことができるんだ。」
できないことばかりに目が向いていた私たちにとって、
これはとても大きな気づきでした。
焦らなくていい。
今は、できることをひとつずつ増やしていけばいい。
そう思えるようになっていきました。
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5. 少しずつ、少しずつ

めばえ教室に通い始めたものの、すぐに言葉が出てくるわけではありませんでした。
毎回、同じようなリズム遊び、体操、カードを使った発語練習。
「ま、ま、マーマ。」
「ぱ、ぱ、パーパ。」
教室の先生や、他の子どもたちと一緒に、何度も何度も繰り返しました。
家でも同じように、妻と一緒に、声をかけ続けました。
「ママって言ってごらん。」
「パパはどこにいるかな?」
長男は、口を動かしながら、「んー、んー」と言葉にならない音を出す日々。
それでも、教室で得意なトランポリンを跳んだり、
静かに座って待つ練習ができたり、
少しずつ、少しずつ、自信をつけていっているように見えました。
そうして時間をかけながら、
「ママ」という言葉が、ほんとうに出たのです。
はじめて「マー、マ、マーマ」と言った日のことは、今でも忘れられません。
もう一度言ってほしくて、
「もう一回ママって言って、パパは?」とお願いして、
それでもいいから、とにかく耳に焼き付けたくて、
二人で涙を流しながら、何度も何度も「ママ」と繰り返す長男を抱きしめました。
幼稚園に上がったときには、
トイレに一人で行ける数少ない子どもたちのひとりになっていました。
言葉はまだたどたどしかったけれど、
確実に、確実に、成長している姿を見せてくれていました。
小さな「できた」を積み重ねること。
焦らず、比べず、目の前の子どもだけを見つめること。
それが、私たち親にとっても、成長でした。
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6. そして今

長男も、今では小学生になりました。
小学校に入学したばかりの頃は、
まだ言葉に詰まったり、言いたいことがうまく出てこなかったりすることもありました。
ときどき、言葉に詰まってしまう「吃音(きつおん)」のような様子もありました。
話すたびに、どこか不安そうな顔をすることもありました。
けれど、私たちはもう焦りませんでした。
「大丈夫。ゆっくりでいい。」
そう心の中で何度も言い聞かせながら、長男を見守りました。
学校生活の中で、長男は少しずつ自信をつけていきました。
国語の授業では、みんなの前で本を音読する機会がありました。
最初は緊張していたけれど、繰り返し練習していくうちに、
はっきりとした声で、堂々と文章を読むことができるようになっていきました。
そして、ある日。
担任の先生から、こんな言葉をいただきました。
「〇〇くん、クラスの音読チャンピオンですよ!」
胸が熱くなりました。
か細い声で「んーんー」としか言えなかった長男が、
今では、クラスのみんなの前で、一番上手に本を読めるようになっていたのです。
家でも、誇らしげに音読を披露してくれる長男。
その一言一言を聞くたびに、
「ただ親として子どもに寄り添っていさえすれば良かった、間違ってなかったんだ。」と、何度も何度も思います。
成長のスピードは、本当に人それぞれ。
でも、どんなに時間がかかっても、
子どもはちゃんと自分のペースで、力強く前に進んでいくんだ――。
今、胸を張って、そう言えます。
今このブログを読んでいるあなたが、
「うちの子、まだ言葉が出ない」
「どうしてうちの子だけ……」
そんなふうに悩んでいるなら、伝えたいことがあります。
私たちも、同じでした。
1歳を過ぎても、2歳を過ぎても、
長男は「んーんー」としか声を出しませんでした。
ネットで検索しても、解決策なんて見つからない。
周りの子どもたちと比べて、焦り、落ち込み、自分たちの育て方が悪いんじゃないかと責め続ける毎日。
「やってる、やってる、全部やってるのに、どうして。」
何度、そう心の中で叫んだかわかりません。
でも、あるとき、出会った言葉があります。
「どれだけ親が頑張っても、成長のスピードは子ども一人ひとり違う。
言葉が早い子、歩き出すのが早い子、字が書けるのが早い子……でも、子どもはそれぞれのリズムで育っていく。
親は、特別なことをしなくていい。
ふだんの生活の中で、ただ子どもと一緒にいるだけでいい。」
この言葉に、どれだけ救われたかわかりません。
長男は今、クラスの音読チャンピオンになりました。
けれど、たとえそうならなかったとしても、
たとえ言葉がなかなか出なかったとしても、
私たちは、長男のまるごとの存在を、愛してきたと思います。
だから、もし今、悩んでいるあなたに伝えたいのは、
「子どもを、今まで通り、愛してあげてください。」
言葉が早くても、遅くても。
できることが多くても、少なくても。
どんな子どもでも、
あなたが一緒に笑ったり、寄り添ったり、時には泣いたり、
そんな毎日の中で、ちゃんと愛されて育っています。
子どもは、あなたのもとで、もう十分にがんばっています。
だから、どうか焦らず、
今目の前にいる子どもの”ありのまま”を、これからもたくさん愛してあげてください。
それが、なにより子どもにとっての支えになります。
長い文章を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
もしこの記事を読んで、
「私の子どもも、こんな悩みがあったな」
「わかる、同じ気持ちだった」
そんなふうに感じることがあれば、
ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです。

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NICUで生まれた息子が、2歳を過ぎても「んーんー」としか話せなかった日々。そして小学生で音読チャンピオンになるまでの成長記録。発語が遅くて悩む親御さんへ、あたたかいエールを込めて届けます。